Chapter I — 太宰 治 風
雨に濡れた猫の話
— 自虐と優しい絶望
改札の前に、ひとりの猫がいた。痩せた三毛で、こちらを見上げていた。私は無視した。猫を哀れむほど、私は余裕がない人間だ。猫の方が、よほど余裕があるのかもしれなかった。
コーヒーを二杯飲んだ。一杯目は朝の儀式として、二杯目は、夕方になってもまだ何もしていない自分への、ささやかな赦しとして。両方とも、まずかった。
夜になって、雨が降った。私は雨の音を聞きながら、結局あの猫はどこへ行ったのだろうと考えていた。あの猫を救えなかった私は、果たして、誰を救えるのだろう。何も救えないかもしれない。それでも、もう少し、生きてみようと思った。