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Sample Chapters

同じ 3 行を、
8 人の作家で

下の 3 行を、自伝録が選んだ作家の文体でそれぞれ書き起こすと、こうなります。 同じ一日が、文体ひとつでこれだけ変わる。それが自伝録の核です。

Input — 今日の 3 行

  1. 朝、改札で猫を見た
  2. コーヒーを 2 杯飲んだ
  3. 夜、雨が降った

Chapter I — 太宰 治 風

雨に濡れた猫の話

— 自虐と優しい絶望

改札の前に、ひとりの猫がいた。痩せた三毛で、こちらを見上げていた。私は無視した。猫を哀れむほど、私は余裕がない人間だ。猫の方が、よほど余裕があるのかもしれなかった。

コーヒーを二杯飲んだ。一杯目は朝の儀式として、二杯目は、夕方になってもまだ何もしていない自分への、ささやかな赦しとして。両方とも、まずかった。

夜になって、雨が降った。私は雨の音を聞きながら、結局あの猫はどこへ行ったのだろうと考えていた。あの猫を救えなかった私は、果たして、誰を救えるのだろう。何も救えないかもしれない。それでも、もう少し、生きてみようと思った。

Chapter II — 夏目 漱石 風

猫と珈琲と雨について

— 知性と諧謔

朝、改札の脇で猫を見た。漱石ならばここで何か洒落た一句でも詠むのだろうが、生憎私は文学者でも俳人でもない。猫の方も、別段こちらに用はないという顔をして、自身の前足を舐めることに専心していた。互いの立場を尊重するというのは、こういうことを言うのかもしれない。

事務所に着き、珈琲を二杯飲んだ。一杯では足りず、二杯では多すぎるというのが、最近の私の悩みである。世の中の大半の問題は、こうした半端な位置にあって、決して割り切れない。

帰宅後、雨が降り出した。窓を開けると、湿気を含んだ空気が室内に流れ込み、書斎の紙が一枚、はらりと床へ落ちた。我輩は、その紙を拾わなかった。

Chapter III — 宮沢 賢治 風

雨の前の三毛猫

— 童話のような透明感

朝、駅の改札のところに、三毛の猫がうずくまっていました。きらきらと、その毛は朝の光に光って、まるで小さな天の川のようでした。猫はじっと、こちらを見ました。何かを伝えたいのか、それとも、ただ、見るということそのものを行っているのか、ぼくにはわかりませんでした。

事務所で、コーヒーを二杯飲みました。一杯目はとてもおいしく、二杯目は少しさみしい味がしました。きっと、二杯目には、世界中の小さな悲しみが、ほんの少しずつ溶けているのです。

夜になって、雨が降り始めました。雨はきらきらと、街灯の下で、銀色の糸のように落ちていきました。あの猫は、どこか温かい場所で、ねむっているといいなと思いました。

Chapter IV — 川端 康成 風

猫と雨

— 静謐と余白

改札の前に、猫がいた。三毛だった。私と目が合った。それきりだった。

コーヒーを二杯飲んだ。二杯目は、味がしなかった。窓の外に、午後の光が、白く伸びていた。

夜、雨が降った。雨音は、ほとんど聞こえなかった。だがそこに、確かに、雨はあった。

Chapter V — 芥川 龍之介 風

三毛猫考

— 簡潔で鋭利

朝、私は改札の前で一匹の三毛猫を見た。猫は私を見、私は猫を見た。猫の目には、人間に対する憐れみとも侮蔑ともつかぬ色があった。私は急ぎ足で通り過ぎた。

二杯のコーヒーを飲んだ。一杯では覚醒に足らず、二杯では平静を欠く。人間の理性とは、つねにこの二杯と一杯の間で揺れているものらしい。

夜、雨が降った。私は雨音の中に、朝の猫の眼を思い出した。あの眼は、おそらく、雨の中でもまだ何かを見ている。私が見ない何かを。

Chapter VI — 都会派 H 風

銀色の改札と、結論のない猫

— 隠喩と空虚

朝の改札は、決まって僕の前で一度だけ赤い光を返した。それは咎めるというより、こちらの存在を確かめるような、控えめな確認だった。誰かに見られている、というほどでもない。ただ、確かに記録されている。そういう種類のまなざしだった。

オフィスでコーヒーを二杯飲んだ。一杯目はだいたい何かを始めるためで、二杯目はだいたい、何かを終わらせないためだ。猫について考えたが、結論は出なかった。猫の問題に結論を出そうとすること自体が、たぶん、どこか間違っている。

夜、雨が降った。窓ガラスを伝う水の筋に、銀色の改札と、駅の階段に座っていた三毛が重なった。彼女は雨の中、どこにいるのだろう。たぶん、僕が考えていたほど遠くじゃないところに。

Chapter VII — 繊細派 E 風

雨の前の、淡い灰色

— 繊細な感情と色彩

朝、改札の脇に三毛猫がいた。白と茶色と、それから黒。三色の組み合わせがあんまり綺麗で、わたしは少し立ち止まってしまった。猫はわたしを見て、それから、視線を逸らした。淡い、優しい拒絶だった。

コーヒーを二杯飲んだ。最初の一杯はミルクを入れて、二杯目はブラックで。同じ豆なのに、入れ方ひとつで違う飲み物になる。人もそうかもしれない、と思った。

夜、雨が降った。空はずっと、淡い灰色をしていた。あの三毛猫の白い部分が、雨に濡れて、もう少し白くなっているといい。そんなことを、ふと願った。

Chapter VIII — 謎解き K 風

三毛猫はなぜそこにいたのか

— 日常の謎と伏線

朝、改札の脇に三毛猫がいた。普段は誰もそこに猫を見たことがない、と後で同僚が言った。それが妙に気にかかった。なぜ、今日に限って、その猫はそこにいたのか。

オフィスでコーヒーを二杯飲んだ。一杯目を半分飲んだあたりで、ふと、改札の上に何かが貼ってあったことに気づいた。チラシだったか、それとも、別の何かだったか。確かめに戻る時間はもうなかった。

夜、雨が降った。雨の音を聞きながら、私はもう一度、朝の改札の風景を思い返していた。あの三毛猫は、何かを見ていた。それが何かを、私はまだ知らない。

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